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古典SF 奇創艦隊 −幻の超兵器たち−

明治末から大正期にかけて、当時の軍事・政治情勢を反映した成人向け「日米仮想戦記」が相次いで発表され、大正末からは「少年倶楽部」等にも子供向け近未来架空戦記として掲載されて一世を風靡します。舞台は海底から遥か宇宙まで、当時なりのアイデアを結集してひとつのジャンルを形成した作品群でした。
その中でも昭和9年に少年倶楽部にて連載された『昭和遊撃隊』に登場する「富士」は飛行潜水艦という超兵器の元祖として知られています。
■立体で見る『昭和遊撃隊』の超兵器
●1/700 飛行潜水艦「富士」
キットデータ
原型製作:千草巽(タスクフォース)
完成サイズ [cm]
 全長:13.6cm 全幅:14.1cm
パーツ
 レジンパーツ x23(ベース付属) グレー成形
 真鍮パーツ x9(開口済砲身・潜望鏡)、デカール

掲載誌 月刊ホビージャパン:2014/03
ジオラマ製作 生嶋毅彦
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●自作ベースによる展示例 (製作:生嶋毅彦)
1/700 A国空母「オリオン」+「荒鷲」爆撃隊
作品データ
製作
 生嶋毅彦
完成サイズ [cm]
 全長:45 艦幅:6.7
備考
 ピットロード1/700「サラトガ」改造
 (サラトガ全長38cm、艦幅4.5cm)
 ワンダーフェスティバル2013[冬]にて展示
[非売品]
作品解説
ようやく完成した武田博士の「富士」と巨大空母「オリオン」から発艦するフーラー博士の「荒鷲爆撃隊」。
物語は最後の決戦を迎える! やっぱり手塚治虫も読んでいたんだろうなぁ…
もう一人、
私が「少年倶楽部」を愛読したのは4〜5年間だろうが、その間に高垣眸の「怪傑黒頭巾」「まぼろし城」、平田晋策の「昭和遊撃隊」「新戦艦高千穂」などを熱狂して読んだ記憶がある。(山田風太郎「昭和前期の青春」より)
みんな燃えていたんでしょう、きっと。
■飛行潜水艦の系譜(抄)
「富士」の登場と活躍により、「飛行潜水艦」という新たなメカジャンルが生まれた事は、その後発表された軍事あるいは冒険小説にかなりの影響を与え、巨大飛行艇型のものから二人乗りの小型のものまで、個性的なものが現れました。では古典SFに登場する飛行潜水艦をざっと眺めてみましょう。
●飛行潜水艦一覧
No 発表年
昭和(西暦)
作品名 艦名 著者 挿画・デザイン 出版社
(制作社)
掲載誌
(メディア)
01 9年(1934) 昭和遊撃隊 富士 平田晋策 村上松次郎 講談社 少年倶楽部
02 11年(1936) 魔海の宝 潜水飛行艇 南洋一郎 梁川剛一
03 13年(1938) 飛行潜水艦 イ‐1・2号 寺島征史 村上松次郎 実業之日本社 日本少年
04 14年(1939) 緑の日章旗 あけぼの号 木々高太郎 永松武雄(他) 誠文堂新光社 子供の科学
  16年(1941) 村上松次郎 博文館 単行本
05 15年(1940) 謎の空中戦艦 光号 南洋一郎 偕成社
06 16年(1941) 怪鳥艇 怪鳥艇 海野十三 樺島勝一 講談社 少年倶楽部
  17年(1942)  〃 飯塚羚児 壮年社 単行本
  23年(1948)  〃 村上松次郎 東光出版社
07 38年(1963) 海底軍艦 轟天号 押川春浪 小松崎茂 東宝 映画
08 43年(1968) マイティジャック MJ号 円谷プロ 成田亨 円谷プロ フジテレビ
09 44年(1969) 緯度0大作戦 アルファー号 東宝 井上泰幸 東宝 映画

1.富士 『昭和遊撃隊』
 SFメカ史に燦然と輝く、飛行潜水艦の元祖です。この「富士」の活躍と人気によって「天翔ける潜水艦」という超兵器のイメージが、確立したと言えるでしょう。
 ロケット噴射型飛行機は、昭和6年に山中峯太郎が著した『亜細亜の曙』にさかのぼります。秘密兵器「無限自進機」の設計図が○国に盗まれ、主人公本郷義昭が奪還するというストーリーで、作中で実機は活躍しませんが、樺島勝一の完成予想図の挿画では主翼後縁にパイプ状の噴射口がずらりと並んで描かれています。これは当時の海外からのロケット開発情報からのイメージと思われます。作品中にもゴダード博士の名前も出てきますから。この噴射口スタイルが定版になり、『少年倶楽部』昭和8年1月号付録の「空中軍艦大模型」、そして富士へと継承されます。さらに富士には通常兵器の13センチ砲、魚雷、爆弾に加えて、青木光線(怪力線)を装備して荒鷲爆撃機と対決します。またホバリングで空中静止も可能という新機能も付与されています。
 軍事評論家、平田晋策はその著書で、米国の強大な海軍力について警鐘を鳴らして来ました(ただし、軍部からニラまれて発禁にならない程度に)。米空母機の急降下爆撃の脅威や、潜水艦隊の潜在能力、さらに、真珠湾の重油をはじめとする物資の補給、備蓄能力にも言及しています。そんな平田が日本海軍に不足していると考えた航空機・潜水艦の兵力を、一気に挽回する超兵器として創造したのが富士と言えるかも知れません。
 挿画を担当した村上松次郎は、昭和初期から少年雑誌に登場し、艦船、航空機の描き手として『少年倶楽部』はもちろん、『少年世界』『少年少女譚海』『日本少年』等の口絵、挿画で人気を高めて行きました。そして本作『昭和遊撃隊』と、翌昭和10年7月からの『新戦艦高千穂』で地位を不動のものとしました。動きがありながらも、実物のフォルム、イメージを的確に捉えた描写は、現代にも通用するものと思います。

無限自進機『亜細亜の曙』(樺島勝一画)

飛行潜水艦「富士」(村上松次郎画)
平田晋策(ひらたしんさく)
1904年3月6日〜1936年1月28日

赤穂の薬種商に生まれる。竜野中中退後、社会運動に参加したが大正10年暁民共産党事件で検挙される。
転向後仏教に傾倒したのち国防問題に開眼、軍事評論家となる。執筆活動を少年誌にも拡げ、「昭和遊撃隊」「新戦艦高千穂」などの軍事冒険小説で人気を博す。
衆院選に出馬した矢先に交通事故に遭い死去

『日本少年』
昭和8年3月号
村上松次郎(むらかみまつじろう)
1897年11月27日〜1962年4月27日

東京生。武内鶴之助に洋画を師事し、戦前は海洋小説や軍事小説の挿絵、軍艦や海戦の口絵を描いた。
戦後も大人向け小説の挿絵から子供向け絵本まで幅広く活躍。
代表作
香山滋「火星への道」、江戸川乱歩「化人幻戯」、横溝正史「悪魔の手毬唄」、坂井三郎「撃墜王」等
2.潜水飛行艇 『魔海の宝』
 密林、秘境、海底等を舞台とした冒険物語で人気を博した南洋一郎ですが、逆にメカ描写はあっさりしています。主役メカの潜水艦「銀鯨号」は空を飛びません。飛ぶのは仇役○国の潜水飛行艇3隻です。銀鯨号を包囲、魚雷を射ちまくるも、すべてハズレ。逆襲されて3隻揃って降伏という負け犬メカであります。挿画の梁川剛一は彫刻家なので人物描写はお手の物なのですが、SFメカには熱が無かったと見えて、冴えが見られなかったのは残念です。

3.イ‐1・2号 『飛行潜水艦』
 『日本少年』に昭和13年1月号から連載されましたが、同誌が10月号で休刊になったため、本作も未完となりました。「飛行潜水艦イ−1号、2号」は透明の機体とされ、不可視です。それを利用して、火星人(!)を名乗りインド独立を阻止しようとする英国他連合軍と戦います。この透明の機体というコンセプトも、山中峯太郎が昭和10年に発表した「見えない飛行機」から一般化(?)したもののようです。「何で乗ってる人が見えないのだ!?」という思考は、このさい捨て去って下さい。イ号もロケット推進のようで、主翼後縁に楕円の穴があいています。機体上面には半円断面の長い艦橋部があり、その前後両端に連装砲塔があります。機体下面にはキャタピラが装備され、地上戦も可能です。全体的には飛行艇型ではなく、陸軍の双発機、屠竜、百式司偵二型等のイメージです。結構立体映えしそうなデザインなので、小説の中絶が惜しまれます。

飛行潜水艦「イ号」(村上松次郎画)

敵艦「魚雷潜航艇」(村上松次郎画)
4.あけぼの号 『緑の日章旗』
 著者の木々高太郎は探偵小説、科学小説で知られ、直木賞作家でもあります。本作は、『子供の科学』に昭和14年1月号の第1回から21回まで連載、22、23回は『学生の科学』15年11、12月号に掲載され完結しました。
 2人の日本人少年の失踪とその捜索からはじまり、やがてゴビ砂漠の向こうにあるという理想郷〈緑の日章旗国〉の存在が明らかなってくる展開です。飛行潜水艦「あけぼの号」は、行方不明の弟を捜す姉、千鶴子がピンチにみまわれた時に救助しその理想郷へ連れて行くのと、後に日本へ送還する時に使われます。出番も少なく存在感も物足りません。九七式飛行艇を小型化、低翼双発にした感じで、SF味が少なくあくまでユートピア小説の小道具的存在に終わっています。
 単行本の挿画は村上松次郎が担当していますが、小説中の扱いにあわせてか木版画タッチであっさり描かれており、それもやむを得ない所かと。主役はユートピアそのものですから…

5.光号 『謎の空中戦艦』
 空中戦艦「光号」は、文句無しの巨大飛行艇です。いわゆる翼の中を人が歩ける― という。本艦もイ号のように透明で、無音飛行。電気砲・怪力線・水中砲・魚雷、さらに電波探知機まで装備しています。秘密団体「X団」が光号の設計図を盗み、デッドコピーの「銀鷲号」を建造して各地を荒しまわるのを、本家光号が追う展開です。最後はX団基地、空中魔城の上空で銀鷲号を撃墜、さらに海中に潜っては敵潜水艦10隻を怪力線で屠って大団円。
小説中にサイズのデータはありませんが、一連の飛行潜水艦の中では最大のものでしょう。

光号vs銀鷲号(村上松次郎画)

空中戦艦「光号」(村上松次郎画)
6.怪鳥艇 『怪鳥艇』
 「怪鳥艇」は、二人乗りの小型飛行潜水艇です。将来、海戦の主力となる飛行潜水艦の試作品という設定です。挿画は、連載/戦中期単行本/戦後再刊本と三人の画家が各々の怪鳥艇を描いています。
 本文の記述にもっとも近いのは樺島勝一版で、コクピット天井部から上に伸びたエンジンポッドとプロペラスピンナーを鳥の首とし、逆ガルの主翼でまとめてあります。完成度の高さはサスガのものです。ただ二人乗りにしては、太く大型に見え、時速900キロのスピードは無理なような…
 飯塚羚児版は、普通の空冷(?)エンジン機の下面にタンクと予備フロートを付けた感じで「鳥」のイメージを持たせるのはちょっと厳しいかんじです。
 村上松次郎版は、戦後の作画とあって、プロペラの設定をあっさり放棄してジェット(またはロケット)推進とし、ガルウイングの軽快なイメージでまとめられています。三者三様、本命を絞るのは難しそうです。

7.轟天号 『海底軍艦』 (注1)
8.MJ号 『マイティジャック』
9.アルファー号 『緯度0大作戦』

怪鳥艇(村上松次郎画)
については、知られすぎるほどメジャーな存在なので割愛します。
注1:小説『海底軍艦』は明治33年(1900)発行だが、登場するのは潜水艦「電光艇」で、飛行能力は持たない。
■実在した? 飛行潜水艦  TEXT:菅原瑞生(奇天烈堂)
 1900年代初め海軍力の増強を図るソ連において、海軍工学研究所の学生ボリス・ウシャコーフによって1934年に潜水機能を有する水上飛行機が提唱され、設計が行われました。
 1936年7月に飛行潜水艦の概念設計が軍事研究委員会によって採択され、翌1937年に実行部門に引き渡されたものの、当時の技術力では実用的な性能に達しないと判断され1938年に計画は中止されました。計画がもう少し継続されていれば模型くらいは作られていたかもしれません。
 性能は、1200馬力のエンジン3基搭載し185km/hで飛行、水中は電気モーターで速度3ノット、45mの深度まで潜水可能。武装は機銃2挺と18インチ魚雷2本の予定でした。
 偶然の一致か、はたまたソ連のスパイ活動の賜物か、本計画が始まったのは「昭和遊撃隊」が連載された時期と一致し、後年雑誌に掲載されたイラストは富士に酷似しています。
 実際に製作されたものとしては1962年アメリカのドナルド・リードによって製作された「RFS-1」が存在します。残念ながら、潜行するためにはプロペラを外してエンジンをゴム製のカバーで覆う必要があり、さらにアクアラングを装着しなければならないという、およそ「超兵器」とはかけはなれた残念仕様…


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